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しゃけスピンオフ)白球編2 〜15の夏〜

中3の夏

 

初戦をコールド勝ちし、春のリベンジを果たすもその後3回戦で早々に敗退。

 

 

 

ジリジリとうだる暑さのグラウンド。

始動する新チームの横で黙々と汗を流すしゃけがいた。

 

 

 

 

リトル時代はただただ野球が楽しかった。

 

昨日よりボールが遠くに飛ばせた。

昨日より速い球が投げられた。

 

それだけで毎日が楽しかった。

将来は、ぷろやきうせんしゅになりたいと何かに書いたこともあった。

 

 

 

 

だが、次第に現実を知っていく。

高学年、シニアあたりからはその仕組みも理解していた。

 

 

そういう意味で、中3の夏時点でのしゃけは負けていた。

 

 

 

多くの超有力選手は夏の大会を前にして進学先が内定していることが多い。いわゆる特待生というやつだ。

 

超がつかずとも内定、リストアップされている選手もおり、特待生枠に準じた段階的な学費免除というものもある。

 

素材発掘に熱心な私立強豪校に行くことが甲子園への近道であり、プロへの道も見えてくる…らしい。

 

 

このへんがよく分からない人はBUNGOとかを読んでみるといいかもしれない。

 

 

ちなみにこうした強豪校の野球部に学力勝負の受験で入学した場合、野球部への入部が認められないことが多々ある。

 

それは野球の実力が認められていないからだ。

 

 

お声がかからなかった選手が私立強豪校で野球を続けていくためには秋に開催されるセレクションというもので結果を出す必要がある。

 

 

ちなみにこれまで分かりやすいように、お声がかかるとかセレクションとかいう表現をしてきたが実際はそんなもの存在しない。

 

 

基本的に選手との直接的な個別接触は禁止されているし、セレクションではなく高校が開催している野球体験会に野球自信ニキが100人ぐらい集まって50m走ってみたり、遠投をしたりするだけだ。

 

 

 

野球雑誌では進路が注目されている選手をAとかBとかSとかいろいろ勝手に評価しているものがある。

 

自分はかなりローカルな野球誌でDマイナスとDをいったりきたり。

 

 

しゃけ 右投両打 外野手

上背はないが左は巧打、右は意外なパンチ力あり。俊敏性に長ける。将来の伸び代に期待。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…もう3年生ですけど!?

身長も全然伸びずに止まってますけど!?

 

 

 

 

 

 

これまでに接触をしてきたところは特待生枠ではなく推薦枠、しかも甲子園出場があまり現実的ではないところだ。

 

 

私学に行くのは金がかかる。しゃけ家には経済的な余裕はない。

 

学費免除とならない推薦枠で甲子園も目指せない、おまけに偏差値の低い学校のため野球がダメだった時に将来が詰む。

 

 

自身の野球レベルに対する評価が今ハッキリと見えている以上、野球以外の道に進むことが将来的に濃厚と考えるのが妥当だ。

 

 

秋のセレクションを受けて一発逆転学費免除もしくは甲子園出場の可能性が高いところに合格すれば…いや、可能性は限りなく低い。

 

 

 

雑念ばかりのポール間走の後、グラウンド外の直線でダッシュの往復をする。

 

OBや関係者の間からスカウトロードと呼ばれるその道は往復ダッシュのインターバルに外部の関係者が偶然を装って話しかけやすいことからそう名づけられたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゼェハァしていると、いかにも関係者らしいオッサンが近づいてきた。

 

接触に備えてオッサンには特に愛想良く振る舞うようにしている。

 

 

暑い中ようがんばっとるね。

 

 

 

 

 

 

 

ただのオッサンだった。

 

 

舌打ちをしながらダッシュを再開する。

 

 

 

(我ながらスレた15歳になってもうたと思うわ…100本やったら切り上げるか)

 

 

 

20本を過ぎたあたりからある視線に気づいた。

 

遠めからスーツの男性がコチラを見ている。

 

 

(えらい若い人やな。20代…ぐらい?)

 

 

 

50本が過ぎ

 

(用があるなら早く話しかけて…)

 

 

70本が過ぎ

 

(いや、もうホンマむり。はよして…)

 

90本が過ぎ

 

(もう話しかけんな…しんどい…)

 

 

結局、100本ダッシュが終わったところで

 

 

『100本お疲れ様。キミがしゃけくんかいね?ワタシは田岡(仮)という者です』

 

 

「(最初から数えとったんか…)ゼェ…こんにちは…ハァ…ありがとう…ございます…」

 

 

『監督さんに聞いたらココやろと言われてね。詳しくは名乗れないけどいくつか聞きたいことがあって来ました。まず、しゃけくんは学内順位TOP3に入る学力ってのはホンマなんかな?』

 

 

 

関西のイントネーションのようで微妙に違う。

関係者なのは間違いないがこんなに学力のことばかり聞いてくる人も初めてだ。

 

 

「自分で言うのも気が引けますけど合ってます。野球があかんかったら何も残らんのはマズいって親から言われてますんで…」

 

 

『やけん、勉強もしよったということかー。親御さんに感謝せななー』

 

 

 

(聞き覚えのある方言…某県の亡くなったじいちゃんの喋り方にそっくりやなコレ。

わざわざ四国からきはったんやろか)

 

 

 

田岡と名乗る男性はカバンから取り出したDVDをブロック塀の上に置き、『あー、DVDをどっかに落としてもうたなぁ』と言い残し去っていった。

 

 

 

 

始動後の新チームにブチギレる、夏の恒例行事真っ最中の監督に了解を取り、監督室で早速DVDを再生してみた。

 

家ではビデオテープ(VHS)しか再生できない。

 

 

 

 

某県のとある高校紹介が流れ始めた。

 

 

公立…??

 

 

お世辞にも新しい校舎とは言えない見た目だったが、充実したトレーニングルーム、学校から離れているがかなり広くて良さそうなグラウンド2面があるらしい。

 

 

 

(この県は結局、関西人の集まりのJが甲子園常連やもんなぁ。親元を離れ野球漬け、とにかく甲子園に出て将来のために自分を売り込むところで有名やしなぁ)

 

 

 

私立J学園。スタメン、ベンチ入りメンバーのうち、キャプテン以外は全員関西人が占める。

稀に地元民もレギュラーに入るが、実力的にだいたい毎回関西になる。

 

 

 

 

学校紹介が終わると画面が暗転し、しばらくすると野球部の練習風景が流れ始めた。

 

衝撃だった。

 

 

 

めちゃめちゃ球が速い。キャッチャーのミット音がエグい。

 

アホみたいにセカンドショートの守備がうまい。ゲッツー早すぎやろ。

 

フリー打撃とはいえ、めちゃ速かったさっきのピッチャーをガンガン打ってる。

 

 

 

(どうなっとんねんコレ…ここホンマに公立か?)

 

 

 

後日、学校で先生にこの高校のことを調べてもらった。

 

 

進学校みたいやなぁ。スポーツ推薦もナシ。

偏差値的に…おっ、しゃけの成績でちょうどぐらいかー?

まぁ、学区とかの問題でアレやけどな。

なんやお前、引越しでもするんか?』

 

 

 

 

「先生、ついでで申し訳ないんですが、そこの県は県大会で何回勝ったら甲子園行けるか分かりますか?」

 

 

 

『そんなもん野球のシロートに聞いたらあかんやろ。…ホンマしゃーなしやぞ。ちょっとだけ待っとれ、調べたるから』

 

 

 

『3回戦の後に準々決勝、準決勝、決勝…なんやえらい少ないなぁ。アレか、こっちの高校が多すぎるんか。5回戦の後に準々決勝やもんなぁ』

 

 

 

(公立やから経済的な部分は問題ない。甲子園出場はこっちで微妙なとこでやるよりかは可能性が高い。野球の道があかんくても進学校やからその後もなんとかなる。

 

問題は受験がガチンコなとこと受験資格を得るために地元民にならなあかんとこか)

 

 

 

 

 

「…なんか今急に引越ししそうな気がしてきましたわ。先生ありがとう。今度よう効くプロテイン紹介させてもらいますね」

 

 

 

 

『そんなんええからはよ帰って勉強せぇ!』

 

 

 

 

「もう出来てますー」

 

 

 

 

 

 

 

つづく?